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オスト・フリューゲル 第7話:対地の鬼神 2017-07-06 15:32




 第7話:対地の鬼神


「出番がねえと思っていたが、神様ってヤツは俺たちを見捨ててなかったな! 回せえええっ!」

 大規模襲撃に打って出た革命軍機の迎撃任務から外され、シケた顔をしていたルーデルは、
 味方が地上砲火にされされたと聞くや飛び上がって叫び、すぐさまJu87G1の操縦席に飛び乗った。

「オモチャを与えられた子どもみたいですよ!」

 後部機銃手のヘンシェルが、ニヤニヤ笑いながら後席に乗ってきた。

「出撃がねえって腐ってたんだから当然だろ。いいか?
 あのハルトマンに貸しを作るチャンスでもあるんだ。楽しくないって方が無理だろう」

「そりゃそうですね」

 エンジンに火が入り、プロペラが回り始める。
 車輪止めがはずされ、機体がゆっくりと動きはじめた。
 同時に無線のスピーカーから、管制官のダミ声が流れはじめた。

『前線からの報告では、ヤツらは森に隠れ潜んでいるそうだ。急降下爆撃はヤツらのマトになりかねない。注意を怠るな!』

「Ju87G1が急降下しなくてなにをしろってんだ?」

「上の考えることはわかりませんな」

 ルーデルとヘンシェルはクツクツと笑い合った。そして――

「要はアレだ。ヤブに潜んでいるウズラを丸焼きにしとけばいいんだろ!」

 直援につく数機のソ連軍機が離陸した後、ルーデルは機体を滑走路に滑り込ませた。

「赤軍の戦闘機が直援ってのが、気に入らないが……。こればかりは仕方ないか。出るぜ!」

 ルーデルのJu87G1が離陸すると、その後を次々とJu87G1が上がっていった。

 戦闘空域はポズナンの数十キロ先。ここを突破されたら、瞬く間に侵略される距離だった。

「英国の機体ってなあ、どんな性能なんだ?」

「西部戦線で飛んでりゃ、多少はわかったかも知れませんけどね。とにかく小回りが利くって話ですけど……」

「けど……なんだ?」

「ロシア人が使ってるって話しもあるんですよ。見たことないですけどね」

「ロシアの熊に、英国の気取った機械が使えるもんか。そりゃダメだろ。
 いや……じゃあ、なにか? 今飛んできたスピットファイアは、ロシア人が操縦してんのか?」

 スピットファイアもハリケーンも、わずかながら英国からソ連に供与されていた。
 しかし、本格的なレンドリースが決まる前に世界革命が勃発したために、その供与量もわずかなものだった。

「まぁ、追いかけられたら友軍機が助けてくれるだろう。それまで、お前が頼りだ。相棒」

「後部砲火は任せてください。ま、腹からきたら、その時はあきらめてくださいよ」

「腹に眼はついてないから仕方ねえ。おっと、冗談はこれまでだ。ここか……」

 眼下に広がる森林地帯の一部の異変に、ルーデルはいち早く気づいた。
 森のあちこちから煙が燻っており、一部の樹木は丸焼けになっていた。

「こんな場所で、『スターリンのオルガン』を空に向けて撃ったのか?」

 ロケット弾の後方噴射炎で地表と森が焼けた跡だった。仰角を取り過ぎれば、噴射炎は足下の地面を焼き、
 当然、操作員もその炎に焼かれることとなる。それを承知で、これを対空砲として使ったのだろう。
 地面のあちこちには、炭と化した人と思しき物が横たわっていた。

「犠牲を厭わない革命軍ってか……。そんなヤツが世界の理想を語るなんて、胸クソ悪くなるな」

「この様子だと同じ場所で連続して『スターリンのオルガン』を使用できそうもないですよ」

「つまり、そういう自決兵器が見えない場所に伏せられていると脅せれば、
 ハルトマンたちが急降下をためらうと思って配置したのか。
 だとしたらそう数はないだろう。燃えてない森を焼き払えばいいってことだな」

 そう決断するが早いかルーデルは機を傾け、『スターリンのオルガン』を伏せられそうな場所を探した。
 立木が多く、上空からなにがあるか判別しづらい場所。

「目標がよりどりみどりってことか……いくぜ!」

 ルーデルは森の一角に狙いを定め、37ミリ砲を撃ち放った。
 激しい震動が機体を揺すり、間隔を空けて轟音とともに森に火柱が立ち上がった。
 あちこちから激しい噴射炎と白煙が上がり、ロケット弾が飛んでくる。

「ノックしたら応えてくれたぜ」

 鈍重なはずのJu87G1を操り、ルーデルは軽々とロケット弾の弾幕を潜り抜けていく。

「煙で空が狭くなるな」

「煙幕も兼ねてんですかね? 左翼3時方向に、物を隠せそうな森があります!」

「全部つぶしてやろうや!」

 ルーデルは機体を軋ませながら高速旋回すると、ヘンシェルが見つけた場所に砲弾を叩き込んでゆく。

「はっ! 誘爆しやがった!」

 砲撃した場所に激しい爆発が起こり、さらにいくつもの爆発が続いた。

「対空砲と違って、そう簡単に撃てる方向は変えられねえだろ! 同時に面で攻撃するならそれなりに並べてるはずだ!」

 誘爆の爆煙の並びから、隠れている『スターリンのオルガン』の並びを推測したルーデルは、再び砲撃を行った。
 火柱が上がり、爆発がそれに続く。
 隠れている革命軍側も一方的にやられているわけにはいかず、ルーデルの機体に向けて『スターリンのオルガン』を再び放った。
 だが、そのロケット弾の軌跡を読んでいるかのように、ルーデルは機体を滑らせてすべて回避してゆく。

「俺たちは……デャーヴァルを相手にしているのか……?」

 次々と破壊されていく『スターリンのオルガン』と、すべての攻撃を嘲笑うかのように避けていくルーデルのJu87G1。
 あり得ない動きに、革命軍のソ連兵士たちは、そんなロシア語で鬼神を意味する言葉をもらしていた。
 一方、空を駆けるルーデルは、爆煙の中に不審な影を見つけていた。

「なにかいるぞ! 気をつけろ!」

 一度攻撃すれば、操作員がほぼ全滅に近いこの燃える森の中で、ゆっくりと方向を変えるなにかがいた。
 それはルーデルのJu87G1を狙い、ロケット弾を撃ち放った。

「なんだありゃあああっ!?」

 機体を傾けながらロケット弾をすり抜けJu87G1。後席のヘンシェルは、攻撃してきたそれを横目でしっかりと確認した。

 それは、シャーマン戦車の頭上に『スターリンのオルガン』を据え付けたような攻撃車輌T34カリオペとの初めての遭遇だった。