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オスト・フリューゲル 第10話:怪物来たる 2017-12-01 16:06




第10話:怪物来たる


「書類のここにハイフンが足りませんよ」

「ああっ!?」

 事務員の指摘にルーデルは顔をしかめた。

「先週まで、これで問題なかったじゃねーか!」

「あんたが変なのを発見してくるからいけないんでしょう! 同じT34という車両が存在する以上、区別するためにきちんとするように、今週から徹底することになりました」

「あのアメリカのドン亀がそうそういるかってんだ。くっそ」

 ルーデルはブツブツこぼしながら、指摘されたT34の項目にT-34とハイフンをつけていった。

「しかし、本当にもういないんですか? その……カリオペは?」

 眉間にシワをよせながら破壊車輌のハイフン付けを行っていたルーデルは、事務員の言葉で顔を上げた。

「あんな自爆攻撃……早々行われてたまるか! まぁ、おかげで森林偵察とか、余計な偵察が増やされちまったらしいけどな。哨戒の連中は気の毒だな」

「あ……なんですかね?」

 滑走路人員が慌ただしく動きはじめるのが、窓から見えた。ルーデルはすぐに鉛筆を置いて事務所を飛びだした。その直後、パイロットはブリーフィングルームに集合するようにという館内放送が流れた。


「遅いっすよ!」

「すまん。事務員に足止め食らってた」

 ブリーフィングルームに飛び込んできたルーデルに、ヘンシェルがニヤニヤ笑いながらツッコミを入れたが、ここに集まっている面子を見たルーデルは、集まっているメンツを見回して眉間にシワを寄せた。

「全兵科いるのか?」

「陸軍のヤツらは別の部屋に集められてますよ」

「陸軍も?」

 ここブリーフィングルームには、爆撃隊から要撃隊まで、あらゆる兵科のパイロットが集まっていた。加えて陸軍まで別の部屋に集められているとなると、革命軍が大規模作戦を展開したとしか考えられない。

「静粛に。昨日、ここから南方にあるヴロツワフ空軍基地が革命軍に破壊された」

 初老の作戦参謀の言葉にパイロットたちはざわめいた。

「ヴロツワフって……ここよりデカイぞ?」

「静粛に! 大規模爆撃隊による攻撃との事だが、生存機の報告から敵機の情報がもたらされた。高度10000メートルを信じられない速度で飛ぶ、ブーメラン型の群れだったそうだ」

「ブーメラン型……? まさか!?」

 思わず声を上げたハルトマンに作戦参謀は頷いた。

「そのまさかだ、ハルトマン。革命軍はどうやってかはわからんが、ホルテンHo229を獲得し、こちらに大攻勢をかけてきたらしい」

 ホルテンHo229とは、全翼型のジェット戦闘爆撃機だった。最高速度は時速997キロ、戦闘行動範囲が1000キロ、上昇限界が16000メートルという、怪鳥と呼ぶに相応しい性能を持っている。
 パイロットたちがざわつく理由は、その飛行高度にあった。迎撃に出ても、届かない上空に逃げられてしまう。しかも、ジェットエンジンだけに逃げ足も速く、ひっそりと隠れて近づき逃げられる前に一撃で破壊するしかない。しかし、それですべてを破壊できるはずもない。

「正確に何機いるかわかりませんか?」

「目撃証言を集めているところだが、現在、8機前後はいることが判明している。護衛機が多種様々なのはいつも通りだが、超高速戦闘機がいたという話もある」

 作戦参謀は壁に貼ったヴロツワフの地図を指示棒で示し、戦闘状況を説明した。
 革命軍はいつも通りに戦闘機や爆撃機からなる航空隊を先発。迎撃機が出払った頃を見計らい、高高度からホルテンHo229が飛来し、精密爆撃で滑走路を破壊して逃走という流れだった。

「レーダーに映りにくい性能を持っているホルテンHo229だ。混戦になれば余計に察知は難しい。混戦の不意を突くように飛来し、土産だけを落して悠々と去って行くそうだ。問題はヴロツワフが襲われたと言うことは、次は……」

 その時、敵機襲来を知らせるサイレンの音が響き渡った。

「せっかちなヤツらだ。説明のいとまも与えんらしい。なんとか迎撃しろ! 陸軍との連係攻勢はあり得る。地上攻撃隊も離陸準備をしておけ!」

 対策らしい対策も立てられぬままポズナン空軍基地のパイロットたちは、それぞれの愛機の元に向かって駆け出した。


「高高度爆撃機か……」

 飛燕改弐武強のコクピットに乗り込んだ京一は、機体確認をしながらドイツ人技師から聞いたこの機の諸元を思い出していた。
 元々飛燕改弐は、きちんと整備されていれば、高度10000メートルでも編隊を組める高高度戦闘機として性能を発揮出来る機体である。エンジンも武装も強化されたこの機体なら、迎撃出来るかもしれない。
 問題は、単機で行動する事だった。ハルトマンたちの愛機Bf109G6は、そんな高高度性能を持っていないために、僚機を置いて高高度に向かうしかない。
――どうすればいい?
 京一が悩みながらゴーグルを顔にかけた時、風防を拳でゴンゴンと叩く音が響いた。ハルトマンだ。

「キョーイチ。俺の機体は高高度にいるホルテンHo229には届かない。もちろん、精密爆撃をしてきた以上、かなり低高度に下りてきているだろう。だが、逃げられたら終わりだ。ホルテンHo229を見かけたら、単機行動して構わない。討てるなら討て」

「了解した」

「それ以外はいつも通りの戦い方だ! 落ち着いて行こう」

 それだけ言ってハルトマンは京一の肩を軽く叩き、自分の機体へと駆けていった。

「全部お見通しか。さすが最強の騎士殿だ」

 やがて滑走路要員がハルトマン隊の離陸を告げてきた。全員が風防を閉じ、滑走路に乗り込んでゆく。
 京一はハルトマン機の尾翼を見つめながら、大きく深呼吸をした。
 飛燕改弐武強の初陣。操縦桿の反応もコクピット周りも大きく変わり、機器に至っては見慣れた日本製部品以外の物がほとんどを占めていた。
 ハルトマン機が動き、京一は間を空けてそれに追従して離陸した。
 すでに空には、援軍としてよこされた数少ないイタリア軍のマッキMC.202CBが飛び立っていた。これは飛燕を初めて見た米軍が、その姿をコピーしたと考えたイタリア軍機で、遠目に見るとBf109以上に飛燕と似た外見をしていた。

「まるで飛燕の編隊だな……」

 さらに後続隊として上がってきたリディアたちソ連軍のYak-1bが合流した。革命軍だけではなく、正規軍もまた寄り合い所帯。多種雑多な機体の博物館と化していた。


『お客さんの襲来だ! 張り切って行こうか!』
無線からハルトマンの声が響きハルトマン隊はさらに上空へと高度を上げた。