MANPADSと過負荷に関する技術的詳細

今回は、『War Thunder』開発チームの専門家が、MANPADS(MANPADS:Man-Portable Air Defense System:携帯式防空ミサイルシステム)における過負荷の影響を計算する技術的詳細について説明します。


近頃、イグラ、スティンガー、ミストラルなどのMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)の許容可能な過負荷に関して、多数の報告が寄せられています。例えば、移動目標に対する破壊範囲など、ミサイルに関する包括的な情報は必ずしも入手できるわけではありません。そのため、ミサイルの飛翔モデルを解析する際には、そのミサイルと構造が類似していて、実際に情報が入手可能なミサイルとの比較分析を行っていることにご留意ください。

ゲーム内の赤外線シーカーを搭載したすべてのMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)は、「カナード」空力設計に基づいた構造で作られ、回転弾体ミサイル(RAM:Rolling Airframe Missile)用に、単一チャンネルによる制御方式を用いて操作します。一対の舵はミサイルのピッチとヨーを交互に制御する役割を果たし、2つ目の固定された一対の舵は固定式デスタビライザーとして機能し、ミサイルの空力的な焦点を前方、重量の中心に近づけるように設計されています。


MANPADS 9M39 イグラの制御部分

参照元:“Техническая подготовка командира взвода ПЗРК 9К38 “Игла””, И. Акулов, В. Байдаков, А. Васильев, 2011.


この「設計解」は、サイズと重量の要件に基づいており、ミサイルの重量を大幅に削減することができるため、MANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)や一部のATGM(対戦車誘導ミサイル)に採用されています。しかし、この設計解を適用した場合、許容可能な平均過負荷の減少にも繋がるため、操舵翼面における制御方式に特殊な特性が課せられることになります。


MANPADS FIM-92 スティンガーの制御部分

参照元:MANPADS. A Terrorist Threat to Civilian Aviation? B.I.C.C.


回転弾体ミサイル(RAM)における単一チャンネルによるリレー式制御の場合では、任意の飛翔方向へ制御する力を発生させるため、舵はサーボモータのメカニクスにより、最外周の位置から別の位置へとミサイルの回転ごとに4回移動します。この舵の制御方式のおかげで、結果として生じる過負荷を調整し、ミサイルの比例航法を確保することが可能になります。


参照元:“Техническая подготовка командира взвода ПЗРК 9К38 “Игла””, И. Акулов, В. Байдаков, А. Васильев, 2011.


操縦翼面がそれぞれの位置にある時間により、結果として生じるミサイルの過負荷によって方向転換の大きさが決定されます。


ピッチ軸とロール軸に沿った合力と、ピッチ面内で飛翔中のミサイルの舵の位置、および必要とされる最大値の70%の合力の変化。



ピッチ軸とロール軸に沿った合力と、合力による制御力がない場合のミサイルの舵の位置の変化。


合力を最大にする必要がある場合、ミサイルの回転ごとに舵が2回曲げられます。


ピッチ軸とロール軸に沿った合力と、合力の最大値を確保しながらピッチ面で飛翔する際のミサイルの舵の位置の変化。


ミサイルが機動している平面に生じる合力の変化は、正弦波の半波として簡略化して表すことができます。回転の半周期にわたる操縦面での平均合力は、機動している平面における合力の変化の積分に等しくなります。これを、同じ期間にわたって、回転弾体でないミサイルの機動している平面で生じる合力の積分で割ると、回転期間にわたる平均過負荷に対する最大過負荷の比率が得られます。


その結果、リレー式の単一チャンネルによる制御システムを備えたミサイルにおいて、回転周期の半分にわたって生じる合力の平均は、回転弾体でないミサイルが制御表面で操作を行った場合の比較は63.66%となります。この比率は、操縦面の舵における、平均許容過負荷と過負荷のピーク値の比率と同様です。

このような特性があるため、MANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)の機動能力を分析する際には、資料に示されている最大過負荷だけでなく、武器の攻撃可能範囲も考慮し、質量と空力面の面積によるミサイルの比較分析を実施します。MANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)については、10.2Gの過負荷が許容可能である9M39 イグラの機動能力を確実に把握しています。これは、技術文書に記載されている過負荷だけでなく、移動目標のエンゲージメントおよびキルゾーンの大きさによっても確認されています。


8gの過負荷で機動を行うMANPADS 9M39 イグラにおける速度310m/sの目標に対するエンゲージメントおよびキルゾーン。


他のMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)については、ミストラル1の場合、オープンソースの情報によると18g、20g、さらには25gと、より高い過負荷を示しています。しかし、これらのMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)は、9M39 イグラと比較して空力面の面積がわずかに異なるだけであるため、許容可能な平均過負荷が何倍にも増加することは想定できません。他のMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)の過負荷が僅かに高いのは、9M39 イグラと比較してミサイルの最高速度が若干高いことが主な原因であると考えられます。従って、FN-6、FIM-92、ミストラルに関して、資料には舵が操縦面にある瞬間に達成されるピーク過負荷が示されていると仮定します。この仮定により、上記のMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)における回転の半周期で許容可能な平均過負荷はピークの63%となり、9M39 イグラの許容可能な過負荷に関するデータと一致します。

『War Thunder』では、技術的な制限により、単一チャンネルのリレー式の制御の場合でも、ミサイルの2チャンネル比例制御を採用しています。そのため、ゲーム内のMANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)における自動操縦の最大過負荷は、回転の半周期にわたる実際のミサイルの平均過負荷に設定しました。ミサイルのステータスカードには、ミサイルの回転の半周期における平均過負荷も表示されます。これにより、プレイヤーは、操縦翼面がミサイルの機動している平面と一致した瞬間にのみ達成されるピーク過負荷よりも、ミサイルの能力をより深く理解できるようになります。

以上の点を踏まえ、下記の変更を適用しました:

  • FIM-92 スティンガー、ATAS(AIM-92):許容可能な過負荷を10Gから13Gに増加しました。自動操縦のパラメーターを調整し、ミサイルのダイナミクスを変更しました。
  • ミストラル、ミストラル SATCP:許容可能な過負荷を12Gから16Gに増加しました。自動操縦のパラメーターを調整し、ミサイルのダイナミクスを変更しました。

  • 『War Thunder』において、MANPADS(携帯式防空ミサイルシステム)の過負荷のパラメーターを計算する上での一般的な原理の解説、およびその具体的な実装方法や、飛翔軌道上の平均過負荷値とピーク過負荷値の違いの説明は以上となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。



    The War Thunder Team